SOLID and TRUE "Rosko" Steel CX.

「江戸さん、注文することは出来ますがいつ出来上がるかも分かりませんよ。無事に納品される保証もできません。」
それまでに納期の面で長く時間を要し、厳しい噂の多かったNewYorkCityのハンドメイドフレーム"Rosko"。無事に納品された実績も数少なく、フレームの輸入をしていた人たちの話を聞いても「やめといた方がいい」と誰もが口を揃えて言った。
賛同するコメントは結局ひとつも得ることができなかったが、彼は言い通す。
「注文でお願いします。」と。
Rosko
そこから長い戦いの始まりだった。時はディスクブレーキのシクロクロスがようやく芽を出し始めた2014年の話である。

僕らはつたない英語を知り合いに相談しながらニューヨークまでeメールを出した。
簡単な挨拶を含めながら「フレームを注文できますか?」とメールを送ると、1日と待たず返事がやってきた。これなら意外とスムーズに納車までいけるかも知れないと期待が高まった。
Columbus Spiritとあるがミックスで異なるチューブを掛け合わせる。
江戸さんの身体の採寸を行い、何度かのジオメトリー相談をRoskoと行う。ハンドルやステムのサイズなど含めて決めていった。
チューブについてはビルダーに完全にお任せでColumbusのSPIRITを使用しつつ、特別なミックス構成で設計されていった。使用するパイプの選択やジオメトリーの塩梅はフレームビルダーのスタイルや本質が滲み出る部分である。半端な知識なままリクエストを出したところで、ビルダーの感性と合わなければ"良い物"はなかなか出来上がってこないのがハンドメイドフレームの難しく面白い部分だろう。
RACING FRAMES MADE IN NEW YORK CITY.
少し"Rosko"について紹介しておく。RoskoはビルダーであるSeth・Rosko(セス・ロスコ)氏のオリジナルのブランドで、彼はアメリカUBIで自転車製作を学び、BROOKLYN MACHINE WORKSのフレーム溶接を担当していた一人だ。NYを代表するブランドとして一代を築いたブルックリンで働きながら、シリアスなライダーの要求に応えるフレームを作り技術を磨いていった。そして自らのブランドとして独立して生まれたのが"Rosko"である。

そのブルックリンというブランドに魅せられた人は日本でも少なくなくて、僕らも取り扱っていたフレームだった。そのブルックリンのフレームを江戸さんが買ってくれたくれた事が僕らと江戸さんの始まりだったことを思い出すと懐かしい。
2012年の秋が瀬の森バイクロア2を走るオースティン・ホース
「NY最速の男」と呼ばれたオースティン・ホースという一人のライダー。RedBullのサポートライダーであり、ブルックリンで駆け回ったNYメッセンジャーだ。
2012年には野辺山シクロクロスや上のバイクロアで来日していて、そのパワフルな走りで会場を沸かせた。野辺山ではC2をシングルギアで優勝する圧巻の走りをみせた。
Austin's BMW...
オフロードだけでなくオンロードも1台でこなしていたのが印象深い。
江戸さんの心は最初から決まっていたかのように微塵の迷いなくリクエストを出した。
「ペイントはオースティンと同じで、出来ればジョーに塗って欲しい。」
内心マジかよとオーダーを難航させるようなリクエストに頭を悩ませたが、もう半分ヤケクソの域に達してセスへと希望を伝えた。
フレームをオーダーした時には最新だったFORCE CX1 Hydric。
それからデポジット金を支払いオーダーが正式に進んでいく。これからが長い戦いだと待ち構えながらも、意外とレスポンスの良いセスに期待が高まっていた。
オーダーから数ヶ月経った頃にメールが届く。「Tシャツ作ったけど買うか?」というセールスだった。
そのことを江戸さんに伝えると「買いますよ。」と即答。僕らもセスの利益になればと数着オーダーして、それはわりとすぐに日本までデリバリーされた。

この流れなら思っていたよりも早く納品されるかも知れない。そう期待に胸を高まらせた。
ENVEのハンドルはカットしてSim-worksのバーエンドを取り付け。
フレームの製作を待ち数ヶ月待ったのだが、まるで神から見放されたようにレスポンスが悪くなっていた。
途中、家族の事情などでオーストラリアに行っていたりと作業を中断するトラブルがあったのだが、それを含めても長く時が流れていった。
やっぱり2年はかかるのか・・・と正直僕らは落胆していた。2015年の寒さが厳しくなり始めた12月、Instagramにアップされた1枚の写真によって僕らは盛り上がった。
brotherhood of friendship & collaboration. Back in 1997 i had the crazy idea that messengers and city riders might like a robust fixed gear frame built to handle real urban use- so off i went on the greyhound out west to ubi with my kitchen table drawing. A few weeks later i would show up on the doorstep of a small upstart company here in #nyc called @brooklynmachineworks with a raw track frame made of tange prestige mtb tubing asking: "would they paint it?" I left that day with a job making bicycles and in the 18 years since @joebmwnyc and i have made a LOT of bikes. We had our ups and down but he has always been there for me with a helping hand, a tool, or advice. Here we are almost 20 years later and i bring by a #roskocycles frame asking joe to do his magic... And he still says 'yes' ✌🏼️ thanks so much for everything. #brooklynmachineworks #madeinusa #madeinnyc #madeinbrooklyn #framebuilding #framebuilder #tigwelding #rattlecan @movement_cycle @edy_west 😜😜
Rosko Cyclesさん(@rosko_cc)がシェアした投稿 -
ブルックリンのJoeによる塗装が完了したと写真がアップされた。江戸さんを知る人たちは「ついに出来たか!」と大盛りあがりしたのだが、悲しいかな、そこからメールの返事ほとんど返ってこない日々が続いていった。いつ完成して、いつ送られてくるのか全く予測できない。江戸さんの気持ちの高まりを感じていたが、それに応えることが出来ないことがとても残念で心苦しかった。

再び僕らの期待を煽るように、年が明けて2016年の1月に再びIGが更新された。
Rosko Cyclesさん(@rosko_cc)がシェアした投稿 -

ついに来るか!そう思ったのも束の間で、またしばらくIG上でセスがタグ付けされた写真にチラりと写るフレームを眺める日々が続いた。江戸さんがこのIGの動画を何周見たのか僕らは知らない。
テーパードヘッドチューブ。
既に約2年の時が経っており、江戸さんは少し寂しげな顔をしながら「とことん待ちますよ」と呟いた。周りからも「もう来ないのではないか」と囁かれ、江戸さんの奥さんは「詐欺師なんじゃないか」と不安げなコメントが多く寄せられた。
信じられないかもしれないが、その後特にメールの返信も無いまま2016年を終えた。日本の常識、いや世界の常識で考えてもなかなかのブッ飛びぶりだ。
ENVE CX Disc
Aki & Movement family,

Hello and hope this finds you and the gang there at Movement well! After a very bad year here I have FINALLY managed to get the order for Edy fiinished and all parts assembled. 
We are now ready to ship. 
I know this is a lot longer than anyone should wait, I just hope the ride eclipses the wait. 
I do not have Edy's email address, please do let him know I am sorry and that the bike is on the way! 
I'll be sure to throw some extra gear in the box for the shop crew. 
Please accept my sincere apologies and I hope Edy will have fun riding this unique racing machine.

-Seth
サイズを間違えて納品されたENVEステム。
その時は前触れなく突然訪れた。2017年の5月末の話である。
セスからフレームを送るという連絡がついにやってきたのだ。悲願が成就した瞬間だった。

少し経ってからフレームは無事日本に届き、ムーブメントに納品された。
フレームの箱を江戸さんと一緒に開き喜びを噛みしめることができた。江戸さんの仲間も駆けつけ皆でフレームとの対面を喜んだ。
飲み会の時の破天荒な江戸さんとは一味違っていて、まるで童心に戻ったように嬉しそうな雰囲気を持った江戸さんの姿を見るのは初めてだったように思う。
その3年数ヶ月の思いを噛みしめながらバイクを組み立て、ようやく納車をすることが出来た。これほど皆に祝福される納車は今まで他に無かったように思う。

コメント